TOP全連小の主張各種審議会への意見「新しい時代にふさわしい教育基本法〜」
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平成14年12月19日
中央教育審議会  座長
   鳥 居 泰 彦 殿
全国連合小学校長会長
会長 西 村 佐 二
中央教育審議会の中間報告「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」に対する全連小の意見
I はじめに
 中央教育審議会は、平成13年11月に文部科学大臣より、「教育振興基本計画の策定と新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方」について諮問を受け、審議を重ね、この度、中間報告が行われた。わが国においては、これまで何回か教育基本法の改正について話題に上っていたが、十分論議されないまま棚上げされてきた経緯があるが、この度、教育基本法を改正するという視点で、これまでの審議の結果を中間報告としてまとめられたことに対し、そのご努力に心より敬意を表するものである。
 本会は、「国家百年の計である教育の在り方は、国民一人一人の生き方や幸せに直結するとともに、国や社会の発展の基礎を作る大変重要な問題である」という貴審議会の考えと全く同じ認識をもっており、このことを基盤に据えて更に議論を進め、答申を取りまとめていっていただきたいと願っている。
II 中間報告に対する意見
1〔第1章 教育の課題と今後の教育の基本方向について〕

(1)<1 教育の現状と課題>について
[1] 現在の日本の教育の危機的状況については、中間答申と同様の認識をもっており、本会も「危機感を持って、教育の在り方を根本にまでさかのぼって見直していかなければならない」と考えている。
[2] 特に、規範意識、学ぶ意欲、自立度の低下、耐性の欠如、人間関係の希薄化、家庭の教育力低下は今日の子どもをめぐる大きな教育課題である。

(2)<2 21世紀の教育が目指すもの>について
[1] 21世紀の教育が目指すものとして、「歴史的変動の時代への挑戦」が「少子高齢化社会の進行と家族・地域の変容」など6項目に渡って述べられているのに比べ、いかに時代が変わっても変えてはならない不易なものとしての「教育の役割と継承すべき価値」は、あまりにもおざなりな感がする。日本の歴史や伝統、国語の豊かさなど日本の誇りとして継承すべき価値について更に踏み込んだ検討が求められる。
[2] 「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」の具体化としての5つの「これからの教育の目標」はほぼ妥当と考えるが、21世紀を生きるこれからの「日本人像」のモデルとしてはやや物足りなさが残る。

2〔第2章 新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について〕

(1)<「1 教育基本法見直しの必要性」について>
[1] 教育基本法見直しの視点として6項目掲げられているが、特に、現行教育基本法では言及されていない、<[3] 家庭の教育力の回復><[4] 「公共」に関する国民共通の規範の再構築>が重要と考える。
[2] 教育基本法見直し不要論に対して、「教育の目的、学校制度の在り方、家庭教育の役割など、教育の根本的な部分について論議を行うことが重要」とされているが全く同感である。教育基本法の見直しについては、是非とも国民的議論をしてほしいと考えている。

(2) <「2 具体的な見直しの方向」について>
[1] 教育基本法見直しに当たって「現行憲法を前提として見直す」ことになったが、現行教育基本法は、制定の経過から憲法と不離一体のものであり、また、憲法で示される国の在り方を支えるものとしての教育基本法であることを考えれば、引き続き憲法も視野に入れた教育基本法の国民的議論を期待したい。
[2] 「教育の基本理念」について、現行の「人格の完成を目指し、平和的な国家及び社会の形成者」「真理と正義」「個人の価値」等に加え、新たに「個人の自己実現と個性・能力の伸長、創造性の涵養」など7つの理念が掲げられているが、総花的で基本理念としての重みが感じられない。教育基本法が日本の教育の在り様を規定する以上、その観点でこの基本理念を精査される必要がある。
 貴会が示された i 〜 vii のうち、i 「個人の自己実現と個性・能力の伸長、創造性の涵養について」、iii 「社会の形成に主体的に参画する『公共』の精神、道徳心、自律心」、iv 「日本人としてのアイデンティティ(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)と国際性(国際社会の一員としての意識)について」、v 「生涯学習の理念について」の4点に絞って見直しの方向を示すことが適当と考える。以下、7つの理念について意見を述べる。

(i) 個人の自己実現と個性・能力の伸長、創造性の涵養について
  ・原案に基本的に賛成である。
   わが国のこれからの社会を考えるときに、貴会が教育目標として掲げた「新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい日本人」の育成は重要であり、その点から、自己の生き方が考えられ、創造性に富んだ人材育成をすることが必要と考える。
(ii) 感性・自然や環境との関わりについて
  ・精査すべき項目とされたい。
   これらの項目の重要性は申すまでもないことであるが、敢えて本法で述べなくても時代や社会の変化に対応した教育として対応することができると考える。
(iii) 社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心
  ・現在の教育の大きな課題の一つと捉えており、原案に賛成である。
   社会の一員としての資質を育成することは、これからの日本人に特に必要であり、個人の価値との均衡において育むべき重要な課題であると考える。
(iv) 日本人としてのアイデンティティ(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)と国際性(国際社会の一員としての意識)について
  ・本法において示されることに賛成である。
   オ同様、現在の教育の大きな課題の一つであり、育成すべき重要な理念であると考える。
(v) 生涯学習の理念について
  ・本法において示すことに賛成である。
   生涯学習は、今日の教育体系の基盤をなす根本理念であると考える。従って、本法において根底に流れる理念として明確に規定することが必須であると考える。
(vi) 時代や社会の変化に対応した教育について
  ・精査すべき項目とされたい。
   世代を問わず国民の一人一人が時代や社会の変化に対応できる能力を身に付けることは当然のことであり、他の項目で対応していることでもあり、敢えて本法で規定するまでもない。
(vii) 職業生活との関連の明確化
  ・精査すべき項目とされたい。
   近年の若者の職業観や就労の状況は深刻であり、その育成はこれまでにも増して必要になっている。しかしながらここに掲げられている内容は、生涯学習社会における個人の自己実現のひとつとして、実際の文教施策の中で重点化すべきものであり、理念として本法に掲げる必要はないと考える。
(3)<教育基本法各条項について>
「教育を受ける権利」「義務教育等」の教育基本法の具体的条項であるが、教育基本法は、5年や10年のスパンではなく、ある程度長い期間にわたって厳然と存在するものである。したがって、「教育を受ける権利」「義務教育等」の各条項設定に当たっては、十分文言等を吟味され、落としてはならない基本的な内容に絞って取り上げられるようにしていただきたい。
  本会は、具体的条項について、以上のような見解を持っているので、中間報告で示された内容についても、「現行法では欠けており、この条項を設定しておかなければ21世紀の教育に禍根を残す」という観点から、BCDEについて以下、意見を述べたい。
 
[3] 教育を受ける権利、義務教育等について
  ア 教育の機会均等について
  ○教育の機会均等については、わが国の教育水準を維持し、憲法26条の「教育を受ける権利」の保障のためにも重要であり、継続されなければならないと考える。
  イ 義務教育について
 

○義務教育は、近代国家における基本的な教育制度として憲法に基づき設けられている制度であり、国民に教育を受けさせる義務を課す一方、国及び地方公共団体は良質の教育を保障する責務を有しており、義務教育の充実を図っていく必要があることは、貴会が指摘されている通りであり、今後も当然継続していかねばならない制度である。
  「小学校段階における就学年齢の弾力化」「保護者の学校選択」「教育選択の仕組み」等が言及されているが、果たして教育基本法で規定するレベルの問題か大いに疑わしく、また、わが国の小学校教育が明治以来130年にわたり営々と築いてきた伝統とその実績を揺るがす問題であり、国民の基礎教育段階としての小学校教育の教育課程を根底から崩すことになりかねないと考え、本会として賛成しかねる。今後引き続き慎重な検討をお願いしたい。

  ウ 男女共同参画社会への寄与について
  ○現行の「教育上男女の共学は、認められなければならない」とする規定から、「男女共同参画社会の実現」の視点へと改正する趣旨は理解できるが、敢えて基本理念として一条項に入れるべきかどうか、男女共同参画基本法との関連も含め、十分論議されたい。 [4] 国・地方公共団体の責務等 。
○現行法第10条 [1] に規定されている「教育は不当な支配に服してはならない」という原則は、これまでも中立性を保つために重要な役割を果たしてきており、「今後も、このことは、重要な教育の基本理念として大切にしていく必要がある」という貴会の指摘の通りと本会も考え、賛成する。
○また、第10条 [2] に示されている「必要な諸条件の整備」については、地方分権という時代の動向の中で、教育の機会均等や公平な条件整備という面と地方の独自性の発揮とという面とのバランスを考慮して、国及び地方公共団体それぞれの責務が明確になるよう、慎重な検討が必要と考える。
○教育振興基本計画の根拠法を設けることについては、本会は賛成する。
   
[5] 学校、家庭、地域社会の役割等
  ア 学校
  ○今後の教育の充実のためには、生涯学習体系の中で、学校、家庭、地域社会がそれぞれどのような役割を担っているかを明確にする必要があるという貴会の指摘には賛成である。しかし、学校教育の役割について細かな規定をすることは、教育基本法全体を通して学校教育の理念が規定されている現行法の精神を矮小化してしまう恐れもある。学校教育が生涯学習の基礎・基本を組織的系統的に指導する役割を担っていることや生涯学習の充実のためにその機能を家庭や地域社会に開く必要があることなど、生涯学習体系の中で果たすべき学校教育の役割をどう捉えるのかという大きな視点から検討されたい。
  イ 教員
 

○学校教育の担い手である教員は、教育基本法を根拠とする法体系に基づいて職務を遂行するものであり、教員についての規定は、現行の第六条Aで十分であると考える。
  さらに、学校や教員に関わる諸課題については、現在すでに各地方教育委員会等が改善に着手しているところであり、これらの解決は、教育振興基本計画等の具体的な諸施策によることの方が効果的であると考える 。

  ウ 家庭教育
  ○本会は、家庭教育についての現状の認識や教育基本法の見直しについて、中間報告案に賛成する。家庭教育についての条文を設け、家庭教育の意義、保護者や国または地方公共団体の義務や責任を明記する方向で検討されたい。
  エ 社会教育について
  ○貴会の中間報告の方向で、さらに社会教育の振興が図られるよう期待したい。
  オ 学校・家庭・地域社会の連携・協力
  ○学校・家庭・地域社会の連携・協力については、生涯学習の理念を実現していく重要な事項であるので、教育全体の在り方を述べる中でこのことについて触れ、具体的な施策等は、教育振興基本計画等で示していくことが望ましいと考える。
   
[6] 教育上の重要な事項
  ア 国家、社会の主体的な形成者としての教養
  ○教育の政治的中立を確保することに、本会は賛成する。
○「公共」への主体的な参画等、具体的な施策は、教育振興基本計画で示していくことが望ましいと考える。
  イ 宗教に関する教育
 

○国公立学校における宗教教育や宗教的活動が禁止されていることは、今後の教育においても重要な原則とするとの考えに、本会は賛成する。
○本会としては、宗教的な情操の教育的価値や積極性は、教育振興基本計画や学習指導要領において、具体化されることが望ましいと考える。

   
3〔第3章 教育振興基本計画の在り方について〕
(1)<「1 教育振興基本計画策定の必要性」について>
  教育基本法の理念を実現していくためには、教育全体に及ぶ総合的な施策の体系を策定することが必要であり、本会としても教育の根本法である教育基本法に根拠を置いた、教育振興に関する基 本計画の策定に賛成である。
 
(2)<「2 教育振興基本計画の基本的な考え方」について>
 計画の策定に際しては、10年後の社会の姿を見通しながら、5年間の計画期間と提言しているが、児童生徒の実態に基づく学校教育関係者の意向を尊重しながら、目標設定、達成状況の把握を慎重に検討しながら進行して頂きたい。また、政策目標の数値化については、当然のことながら人的・物的条件整備を併行させることが大切であり、十分検討されたい。
 何れにしても、未来を担う子どもにとって、学ぶことが楽しく、わかる喜びが感じられる教育環境をつくっていかなければ、「新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい日本人」という新しい時代の教育目標は達成できない。その意味で、政策目標に何をどういう順序で取り上げるかについては、今後十分、検討されることを望んでいる。
 参考として例示されている政策目標を見ると、教育基本法の理念を達成するために、何を重点的 に行おうとしているかという全体を貫くコンセプトが見えてこず、羅列的・総花的な感じが否めない。また、いじめ、校内暴力の「5年間で半減」、不登校等の大幅な減少、授業が分からない子どもの半減等が例示されているが、これらは、現在の教育の病理現象とも言えるものであり、学校・家庭・地域社会が真に連携・協力しなければ解決しえない難しい課題であり、数値目標を掲げて簡単に達成できるとは考えにくいように思われる。是非、達成のための具体的な方策についても計画の中に盛り込まれたい。
 
(3) <「3 教育振興基本計画に盛り込むべき基本的な方向」について>
 本会としても今後、学校教育の確立、家庭・地域社会との連携・協力の推進、生涯学習社会の実現等について、基本的な方向を論議していくが、教育行政を推進していく機関がそれらを推進・実施していくために必要な財政的な裏付けについて、十分検討し、盛り込んでほしいと考えている。
 
。 終わりに
 
 本会は、先の教育改革国民会議から教育改革についての意見を求められた折り、「日本人としてのアイデンティティを確立することこそ急務」として、「その視点に立った21世紀の教育の基本理念を策定する必要がある」と述べてきたところである。また、本年度、本会の研究主題は、21世紀の教育を見据え、研究主題を「新しい時代を拓き、国際社会に主体的に生きる心豊かな日本人を目指す小学校教育の推進」としたところである。この研究主題には先行き不透明な21世紀を、また激しく変化するであろう21世紀を生きる現在の子どもたちが、どのように社会が変化しても、くじけず、夢や希望をもって新しい時代を積極的に切り拓いていく心豊かな日本人になってほしいという願いが込められている。
 本会は、中教審中間報告と基本的考え方において一致していることを喜ぶとともに、願わくば、教育基本法見直し論議が国民的に展開され、その議論を通して、現在の子どもたちを取りまく様々な教育課題解決へ明るい見通しが開け、21世紀に生きる子どもたちが夢と希望と誇りをもって生きることができる国の教育の在り様を指し示すことになればと大いに期待しているところである。
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