4 「学力調査」結果の分析・考察

(1)第5学年の分析・考察

(1) 複数の社会的事象を関連付けて考えたり,複数の資料を活用して何かを導き出したりする思考力や資料活用能力が育っていない
 「小さい魚がかからないように,できるだけ大きな目の網で漁をする」「さいばい漁業センターで育てた小さい魚を海へ放流する」という2枚のカードからこれから共通する目的としての「水産資源の保護・育成」を導き出し,自分の考えを記述させる問題の通過率は低い。複数の社会的事象を相互に関連付け,論理的に考え判断する力が十分でないことによるものと考えられる。このことは,社会的事象の事実認識を相互に関連付けて,社会的意味を捉える考え方の指導の工夫が十分でないことが考えられる。また,今回の調査では,「あなたの考えを書きなさい」という記述式の問題は,70%の設定通過率を下回っている。これは,自分の考えを適切に文章化する力が十分でないことにも起因しているものと思われる。国語科の「書く」指導とも関連させて,自分の考えを適切に表現する力も付けていきたい。
 「工業の種類別の生産額」と「大工場と中小工業の工場数」という2つの統計資料から「生産額は機械工業が1位」「工場の数は機械工業が1位」を読み取り,そこから「日本の工業の中心は,機械工業である」を4つの選択肢から選ぶ問題(資料1)の通過率も低い。複数の読み取った数値を関連させて一つの社会的事象を捉える力が十分でないことによるものと考えられる。こうした力は一朝一夕には身に付きにくいので,児童がこれまでに学び取った社会的事象の見方・考え方や知識,既習体験等を駆使して,いくつかの数値を関連させて一つの社会的事象を把握させる学習の場を意図的・計画的に設定し,実践していく必要がある。同時に,統計資料より読み取った数値から,具体的な社会的事象をイメージ化する力も習得させることが大切である。
 
(2)  イラストや写真,要素数の少ない単純な資料の読み取りはできるが,数値を伴う資料や文章資料の読み取りが不十分である
 日本の四季の特徴を示した4枚の図から日本の気候や特色を読みとる問題や,3枚の絵カードを見て沖縄県の人々の暮らしの工夫を指摘する問題などのように,イラストや写真という視覚的・直観的に内容をイメージしやすい資料の読みとりや活用は,設定通過率を上回っている。また,「わが国の魚や貝類などのとれ高の変化」や「おもな国の魚や貝類のとれ高」と関係する社会事象を選択する問題,「日本のおもな外国からの輸入品」の資料からアラブ首長国連邦とサウジアラビアからの共通輸入品目である石油を導き出す問題のように,読み取る要素の数が少ない資料の読み取りや活用も設定通過率を上回っている。
 教員が,児童に興味や関心,問題意識をもたせやすくするために,読みとりや資料の工夫をしていることによるものと思われる。
 しかし,「わが国の自動車のおもな輸出先」の統計グラフ(円グラフ)からわが国の主な貿易相手国を読みとるといったように,数値を具体的に読み取ったり活用したりする問題(資料2)や,「びわ湖の汚れの防止に関する年表の文章」から公害を防ぐ努力を読みとる問題のように,文章を読みこなして活用する問題は,設定通過率を下回り,前回の通過率からも下がっている。「資料2」の問題は,単純に輸出先上位3か国の割合を足して概数で答えるものであり,決して難問ではない。
 統計資料というと苦手意識をもつ児童も少なくはなく,社会科においては欠くべからずの資料であるので,読み取り方や活用の仕方を算数科の数量関係の学習とも関連づけて指導し,苦手意識を払拭させていきたい。また,文章資料の読み取りと活用は,国語科の読解指導とも関連付けて行うことが必要である。

 

(3) 社会的事象や社会科用語の基礎的・基本的な事項の理解が十分でない
 都道府県名・地方名とその位置,外国名・外国の地域名とその位置,国土の位置の表し方(緯度と経度,方位)など,地図帳を活用して目的地への交通手段を選択するなど,地図の基礎的・基本的な知識・理解に関する問題は,設定通過率を下回っている。
 伝統的な技術を生かした工業に関する内容について記述した4枚のカードを「技術の継承」と「製品の販路の拡大」とに分類したり,伝統的な技術を生かした工業製品のよさについて答える問題,自動車の組み立て工場と部品工場の違いを4枚のカードから三つ指摘したり,自動車生産に携わる人々の工夫を4つの選択肢から一つ選んで答える問題などについての知識・理解も,設定通過率を下回っている。
 さらに,「二百海里」「せんい製品」「化学製品」など社会科用語の理解も十分でない。こうした社会科における基礎的・基本的な事象や用語は,社会的思考・判断の前提・糧になるものであることから,その理解を確かなものにしていく学習指導や指導方法の工夫を図っていく必要がある。
 「資料からわが国の主な貿易相手国・地域を読み取る」問題(資料3)は,通過率が,25.9%で全問中最低であった。「地域」という社会科用語の捉え方が曖昧であるとともに中華人民共和国を回答した者が多かったのは,単にグラフの中で目立った国名を書いたためと思われる。日本と関係がある国々の地域や位置については正確に理解させておきたい。そのためにも,基礎的資料として,地図の活用や地図指導を意図的に社会事象と関連付けながら進めていく必要がある。
 
(4)  我が国の運輸,通信などの産業の様子と国民生活との関連にかかわる事象に対する思考・判断,資料活用能力,知識・理解は,設定通過率よりも高い
 「情報の活用について根拠をもって考えを述べる」問題(資料4)は,記述式にもかかわらず,通過率が97.7%で全問中最高であった。明日の天気を確かめる方法とその理由を自分なりに述べるということは,こうした状況が児童にとっても日常的な出来事になっていることから,実感をこめて記述できたことによるものと思われる。
 運輸業にかかわる事実と資料を結びつける資料活用能力の問題,運輸業の役割を問う知識・理解の問題,情報を収集・編集する仕事の工夫や放送・新聞・電話の特色を問う知識・理解の問題は,設定通過率を上回っている。「運輸,通信などの産業の様子と国民生活との関連」に関する学習は,児童が興味・関心をもちながら,見学・調査・体験活動や表現活動を進めやすい環境にあり,自分の日常生活とかかわらせながら具体的に事象をとらえたり,考えたりしやすいことがその原因と考えられる。同時に,教師にとっても資料の入手や教材研究をしやすく,この間,授業実践も多様に行われていることから比較的指導しやすい内容になっていることも原因していると思われる。
 

(2)第6学年の分析・考察

(1)  歴史学習の前半の時代については知識・理解や思考・判断の通過率が高い
 「弥生時代と米栽培」「仁徳天皇と古墳」とを結びつける問題の通過率は90%を越えている。また,室町時代の「足利義満と金閣」「雪舟と水墨画」等の関連を問う問題についても通過率は比較的高い。また,貴族の時代の生活の様子を文章で記した上で,「それまでとはちがった文化」が生まれたがそれは何かを問い「源氏物語」「枕草子」を選ぶ問題については,通過率が前回より6.7ポイント上回っている。
 こうしたことは,歴史学習の前半の時代では,1人の人物や一つの時代と結びつく歴史事象がそれほど多くないことから,資料等を活用して比較的内容的・時間的にゆとりをもって学習に取り組めることが知識等の定着を図っている原因になっていると考えられる。
 また,織田信長,豊臣秀吉,徳川家康の3人からもっとも関心をもった人物を選んで,その理由を書く問題では,選んだ武将の比率にそれほど顕著な差がなく,選択理由の記述では,設定通過率より10.5ポイント高い80.5%の通過率を示している。一方,本居宣長,杉田玄白,伊能忠敬の3人から選ぶ問題では,伊能忠敬を選んだ児童が61%ともっとも多く,選択理由の記述でも設定通過率を19.4ポイント上回る89.4%となっている。これは,問題文中にも記述されている3人の業績の内,忠敬の「日本地図作成」が,他の「古事記」「解体新書」より身近で,親しみやすいことによるものと考えられる。こうしたことから,歴史上の人物を扱うには,業績と一体にして取り上げ,その業績を児童の興味・関心と結びつけ,わかりやすく,親しみやすいもので示し,特に,学問や文化に関してはその業績が現代とどのように関わっているかに配慮しながら取り組ませることが大切になる。
 
(2)  幕末から明治維新にかけては理解が不十分な部分が多い
 「政治のことは,会議を開いてみんなの意見を聞いて決めよう」を年表中の五か条の御誓文など5つの出来事と結びつける思考・判断の問題に対する通過率は,設定通過率より低く,54.5%である。また,このことと関係の深い人物と結びつける知識・理解の問題では,設定通過率より10.3ポイント低い39.7%であり,前回の45.2%より大きく下回っている。西郷隆盛や大久保利通,小村寿太郎等と結びつけている誤りが見られる。また「天は人の上に人をつくらず,人の下に人をつくらずといへり」を同じく年表中の出来事と結びつける問題では,設定通過率より13.2ポイント低く,前回の76.2%より大幅に低い56.6%の通過率となっている。関連する人物として明治天皇,大久保利通,小村寿太郎をあげている誤答も少なくない(資料1)。
 このことは,幕末から明治維新にかけて取り扱われる人物の数と,原始から江戸中頃までの間に取り扱われる人物の数とがほぼ同数になっており,幕末から明治維新までの方が密度がはるかに濃く,しかも相互の関連性が高くなっていることから,変化が激しく,多くの人物群が登場するこの時代を,児童が問題意識を持って構造的に把握し,年代・人物・事象の相互関係を捉えながら,時代像のイメージを図りながら学習を進めていく指導の仕方が十分でないことによるものと思われる。比較的ゆとりをもって取り組める江戸中期頃までの学習の積み重ねの中で,人物と事象・業績を結びつけた時代像のとらえ方や学習の進め方等を児童に獲得させていく必要がある。
 B ある程度「時代の間隔」が狭く,しかも複雑な要素を持った時代内容の事象になると知識・理解,思考・判断が十分でない
 1931年から1951年までの年表をもとにして,「中国の北京の郊外で日本軍と中国軍がしょうとつして戦争が中国各地に広がっていった」記述を,1931年の満州事変,1937年の日華事変等から選ぶ思考・判断の問題では,設定通過率より9.8ポイント低い40.2%の通過率になっている。更に,1939年の第二次世界大戦勃発や1941年の太平洋戦争開始等の年表の出来事の中から「日本軍はハワイのアメリカ軍基地などをこうげきし,アメリカ合衆国,イギリスなどの国々とも戦争を始めた」と関連する出来事を選ぶ思考・判断の問題についても,設定通過率を下回り57.5%となっている(資料2)。
 また,「私は,外務大臣として外国人を日本で裁判できるように条約を改正した」の記述と関係する人物を,陸奥宗光や伊藤博文,板垣退助,大隈重信ら6人から選ぶ知識・理解の問題では,設定通過率より10.1ポイント低く,前回よりも低い39.9%となっている(資料3)。これは,歴史的事実を着実に定着させる歴史学習が十分ではないという証左である。したがって,今後は,これまでと同様,思考・判断や資料活用場面を多く取り入れ,人物と業績,年代,時代背景,周辺の人物との関連などが総合的に把握・理解される学習を進める一方,できる限り「人」が時代の中に特徴的に位置付けられ,児童が歴史的な展開,スト−リ−性に興味・関心をもつことができるような学習活動を工夫し,その中で知識・理解を確実なものにしていく「歴史学習」を展開していくことが肝要である。

 

(3)  ある程度「時代の間隔」が狭く,しかも複雑な要素を持った時代内容の事象になると知識・理解,思考・判断が十分でない
 1931年から1951年までの年表をもとにして,「中国の北京の郊外で日本軍と中国軍がしょうとつして戦争が中国各地に広がっていった」記述を,1931年の満州事変,1937年の日華事変等から選ぶ思考・判断の問題では,設定通過率より9.8ポイント低い40.2%の通過率になっている。更に,1939年の第二次世界大戦勃発や1941年の太平洋戦争開始等の年表の出来事の中から「日本軍はハワイのアメリカ軍基地などをこうげきし,アメリカ合衆国,イギリスなどの国々とも戦争を始めた」と関連する出来事を選ぶ思考・判断の問題についても,設定通過率を下回り57.5%となっている(資料2)。
 また,「私は,外務大臣として外国人を日本で裁判できるように条約を改正した」の記述と関係する人物を,陸奥宗光や伊藤博文,板垣退助,大隈重信ら6人から選ぶ知識・理解の問題では,設定通過率より10.1ポイント低く,前回よりも低い39.9%となっている(資料3)。これは,歴史的事実を着実に定着させる歴史学習が十分ではないという証左である。したがって,今後は,これまでと同様,思考・判断や資料活用場面を多く取り入れ,人物と業績,年代,時代背景,周辺の人物との関連などが総合的に把握・理解される学習を進める一方,できる限り「人」が時代の中に特徴的に位置付けられ,児童が歴史的な展開,スト−リ−性に興味・関心をもつことができるような学習活動を工夫し,その中で知識・理解を確実なものにしていく「歴史学習」を展開していくことが肝要である。
 
(4)  政治・国際理解に関しては,身近な存在や体験をベースにしたものは理解度が高いが,抽象度の高い事象に関する理解や資料活用力は十分でない
 世界地図の中から,中国やアメリカの位置を問う問題やオリンピックの説明として当てはまるものを四つの選択肢の中から選ぶ問題は,設定通過率より上回っている。しかし,青年海外協力隊の目的として当てはまるものを選ぶ問題や,「日本で勉強している外国人留学生」と「各国に対する日本の経済援助」の棒グラフから言えることを選ぶ問題では,設定通過率を下回っており,特に,青年海外協力隊の目的については設定通過率を11.4ポイントも下回っている。これは,こうした出来事に対して身近な経験や情報も少なく,関心があまり高くないことによるものと思われる。また,複数の資料からの読みとりに関しては,「日本で勉強している外国人留学生」のグラフが国費と私費にわかれ,国費留学生が非常に少ないことや「各国に対する日本の経済援助」のグラフに示された援助先の国名が多く,それらの国々が世界のどの地域に位置しているのかがとらえられていないこと,両者の資料を関連づけて読みとること等が不十分であることから正解に至らなかった可能性が考えられる(資料4)。政治や国際理解に関する出来事については,日常生活との関連や統計資料による読みとりなどを通して関心を高めさせ,自分の考え・課題をもちながら自分とのかかわりを発見できるような学習を作り出していくようにしたい。