3 「学力調査」結果の分析・考察
(1) 第5学年の調査結果
 @ 結果の概況
学力調査の項目は93項目で,設定通過率と通過率との関係は,以下の通りである。
・設定通過率より通過率が上回ると考えられる調査項目……………36項目
・設定通過率と通過率が同程度と考えられる調査項目………………39項目
・設定通過率より通過率が下回ると考えられる調査項目……………18項目

 このような結果から,第5学年の理科の学力は概ね良好と考えることができるが,この分析では,設定通過率より通過率が有意に上回った1項目と,通過率が有意に下回った3項目を取り上げその内容を検討してみることとする。
 A 通過率が設定通過率より上回ると考えられる調査項目
C2 (2) 生物とその環境  {評価の観点}観察・実験の技能・表現
   {設定通過率}70%  {通過率}88.5%
 この設問は,飼育しているメダカを産卵させるために必要な条件についての知識を再生するとともに,その具体的方法を考察することができるかどうかを見るものである。
 メダカを実際に飼育して産卵させる経験が,解答する際に生きてくる設問でもある。適温を示す温度計に目をやったり,卵を産み付ける場所になる水草の有無やメダカのオス・メスの区別等に注意したり,実際にメダカを飼育する活動を展開していないと正答がむずかしい問でもある。この結果によれば,学習活動の中で実際の飼育も観察もよくされているものと考えられる。理科学習で常に求められている自然の事象に対する直接体験の重要性を再確認できる結果でもある。今後も理科の授業の中で,できるだけ多様な自然の事象と直接ふれ合える体験を児童ができるよう工夫していく必要がある。
 B 通過率が設定通過率より有意に下回ると考えられる調査項目
C4 (1) 生物とその環境 {評価の観点}自然事象のについての知識・理解
   {設定通過率}70% {通過率}43.7%  −26.3%
 設問は,メダカの発生の観察記録から,その発生の過程と卵の中に見られる特徴的な眼球の変化についての知識を再生することができるかどうかを見るものである。
 この設問では,メダカの発生で卵の中の「14日目」の様子として,4つのステージの中で一番成長しているものを選択することを求めているが,Aの8日目のスケッチと混同してしまった児童が多く,Aを選択した誤答者が正答者数を上回る49.9%もいた。かなり似かよった図であり混同したものと考えられるが,今後の指導では,観察に際してより詳細部分への注意力など緻密さを育成することが求められる。
C9 (2) 物質とエネルギー {評価の観点}観察・実験の技能・表現
   {設定通過率}80%  {通過率}46.6%  −33.4%
 この設問は,てこのきまりに基づいて,てこ実験器を用いて位置と重さの関係を計算で導き出すことができるかどうかを見るものである。設問では,(1)で数値だけ答えさせたものを,てこがつり合っている場合について「支点からの距離と重さの関係」を計算によって求めさせるものである。先立つ(1)の設定通過率に対する通過率をみても,65.0−80=−15.0(%)で,既にかなり良くない結果である。
 この設問の単元「てこのはたらき」では,てこ実験機を使って時間をかけ,一人一人が納得のいくまで実験を行い,てこのつり合いについて,自ら規則性を見つけていく過程を踏ませることが容易でもあり,実際もよく行われている。そして,それらの実験を繰り返し行うなかで,変数となる条件を意識し,支点からの距離と重さの関係が明確に認識できるような実験や記録を工夫し,行うことも比較的よく行われている。しかし,実際に児童が発見的に規則性を見つけられるような活動を行い,天秤には,数式で表すことができるような決まりのあることを発見すれば,学習が終了という例が多く見受けられることも事実である。規則性についての定性的な理解に止まるのである。この結果からみれば,今後は,そこに止まることなく,更に実際に天秤には数値的に安定した関係がみられるのか,確認する定量的な実験を行うなどの学習活動の工夫が必要と考えられる。

B11 (1) 地球と宇宙  {評価の観点}科学的な思考
   {設定通過率}60% {通過率}44.2%  −15.8%

 設問は,地面に垂直に立てた棒の影の位置の変化により太陽の動きを判断するとともに,その判断の根拠を再生することができるかどうかを見るものである。意識さえすれば,日常的に観察のできる事象でもあるが,児童にとっては,遙かに遠く広い宇宙空間の太陽の動きと,自分の足下の影の動きを関係づけることは,むずかしいことである。しかし,多くの教員には,このことについて認識されていないようにも思われる。
 そのため,実際に多くの学級で設問のような観察器具を作っての観察などの活動を行ってはいても,空間認識の変容に導くまでの指導にはなっていないものと考えられる。今後,児童がもっている天体についての見方や考え方を明らかにしながら,その変容を迫るような学習活動の工夫が必要だと考えられる。机上で平面的に表現されているもので抽象的に理解させるのではなく,体感などもさせながら具体的な学習経験を積み上げ,児童自らが創る知として身に付けることができるように配慮したいものである。
 
 C 同一問題(全29項目)の通過率の比較(全29項目)
 
・前回を有意に上回るもの…………………8項目
・前回と有意に差のないもの………………8項目
・前回を有意に下回るもの…………………13項目
 {通過率の平均} (前回)71.8%  (今回)71.1%
ここでは,前回を有意に上回る項目の中の1つと前回を有意に下回る項目の中の1つを対象として分析・考察する。
 
A12 (2) 地球と宇宙 {評価の観点}科学的な思考
{設定通過率}50% {前回通過率}44.1%(公立) {今回通過率}49.5%(公立)
 
 設問は,月の満ち欠けについての実験装置の仕組みを解釈し,月・地球・太陽の位置関係から月の満ち欠けという現象を考えることができるかどうかを見るものである。この天体についての学習では,実際に直接手にとって観察・実験することができない対象を,間接的な静的な観察という手法によって調べていくことになる。また,月の観察は,夜行うということもあって,家庭学習が主となりやすく,その定着もむずかしい学習活動である。そのため,ややもすると,ただ教科書の図などを中心に知識・理解を求めるだけの学習に陥りやすい。今後は,この設問に取り上げられているような具体的な教材・教具等を利用して,児童が具体物の操作などの活動によって理解を深められるよう工夫した学習を進めることも大切であろう。
 
C8 (1) 物質とエネルギー {評価の観点}科学的な思考
{設定通過率}60%{前回通過率}64.8%(公立){今回通過率}58.8%(公立)
 
 設問は,道具の支点・力点・作用点の各点を抽象化するとともに,帰納的に一般化 することができるかどうかを見るものである。「てこのはたらき」の学習において,実際の生活の中にある道具の支点・力点・作用点について考える機会があるが,近年の生活では多くの児童にとっては,日常生活の中でもほとんど使うことがない道具である。実際の使い方をイメージすることすらむずかしかったものと考えられる。今後,学習活動の中で,実際に使う体験的な活動を行うとともに,児童が支点・力点・作用点という用語を通して道具のよさを理解していけるような活動の工夫も大切であろう。
 

(2) 第6学年の調査結果

 
1,結果の概況
学力調査の項目は,94項目で,設定通過率と通過率との関係は,以下の通りである。
設定通過率より通過率が上回ると考えられる調査項目……………68項目
設定通過率と同程度と考えられる調査項目…………………………21項目
設定通過率より通過率が下回ると考えられる調査項目……………5項目
このように,結果からは,第6学年の理科の学力は概ね良好と考えることができるが,この分析では,通過率が設定通過率より20%以上上回ったもの4項目の内から1項目と下がったものの内から各区分ごとの1項目について,その内容を検討してみることとした。
   
2,通過率が設定通過率より上回ると考えられる調査項目
  A10  (2) 地球と宇宙  {観点}観察実験の技能・表現
     {設定通過率}60%  {通過率}81.2%あ
 誤答と回答類型にあてはまらない内容を回答しているもの18.1%,無回答0.7%を除く全員が正答している。この設問の出題のねらいは,崖の様子を観察して土地の構成物の特徴と成因を関係付けて推論し,土地の構成物を調べる方法について考察できるかをみることである。崖の様子や土地を作っている物を調べ,見い出した問題をさらに詳しく調べる方法を選択できるかを調べる項目3つの内の一つであるが,他の項目でも,高い通過率である。観察・実験の少ない学習内容であるが,この結果からみれば,日頃の授業の中で,多面的な視点から観察・実験を行い,結論を導くという学習が着実に進められているものと考えられる。

  3,通過率が設定通過率より下回ると考えられる調査項目
  A7  (1) 物質とエネルギー  {観点}観察実験の技能・表現
    {設定通過率}60%   {通過率}37.3%
 この設問では,電磁石の磁力を強くするための条件について,変数を固定するための実験装置を比較するとともに,その根拠について考察することができているかを見ている。電磁石を強くするための実験の計画をたてるという時に,必ず一人一人が考えなくてはならないことである。電磁石を強くするには,乾電池の数や導線の巻き数を増やす,導線を太く,鉄芯を太くするなどが考えられる。この中で電流を強くする観点で調べるためのふさわしい方法を選択できるかをみているのであるが,「電流を強くする」という問と実際に試してみたこともあるであろう「電池の数を増やす」という具体的な操作とを結びつけて考えることができなかった児童が多かったものと思われる。
 この調査結果からは,今後,条件を制御しながら計画的に目的に合った実験の方法について,考えたり,情報交換等により吟味したり,実験を行い確かめたりしていくという学習の過程を一層重視することが必要と考えられる。
  B1  (4) 生物とその環境  {観点}科学的思考
    {設定通過率}60%  {通過率}26.8%
 この設問では,人の呼気と吸気に含まれている二酸化炭素と酸素の割合の変化について気体検知管から読み取るとともに,その結果から呼吸の仕組みについて考察することができ,肺の働きから呼気と吸気や肺胞の周りの毛細血管の血中に含まれる酸素と二酸化炭素の量的な変化について類推することができるかを見ている。
 ところで,この(4)の問に解答するためには,先の設問である(2)や(3)の資料が示している酸素,二酸化炭素の量の相違を読みとり(4)の図が示すこととを結びつけ,多面的に解釈し結論を出さなければならない。つまり,長い文章の意味を読み取ったり,同一紙面上にないデータを見直したり,図が示す事象を想像したりして,思考・判断するという第6学年の児童にとっては,質的にかなり高度な設問だと言える。
 一方,この設問の問かけの流れは,児童が学習活動として,実際に問題を解決していく過程を想定しているとも言える。日々の授業の中で,思考活動と観察・実験の結果,資料等をどう整理し,表現活動等を通して,多面的に考え結論を導きだすように指導してきたのか,科学的な思考力をどのように育ててきたのかが問われている場面である。今後の改善が求められる点のひとつとも言えよう。
  C9  (1) 地球と宇宙  {観点}自然事象についての知識・理解
    {設定通過率}60%  {通過率}53.7%
 この設問では,星の色や明るさについての知識を再生し,星を同定したり記録に表したりすることができるかどうかを見ている。具体的には,夕方星空を観察したときに児童なりにもちがちな素朴な見方や考え方が,具体的な観察・実験等を中心とした問題解決の学習活動を通して,いかに変容したかを見ているのである。
 誤答をみてみると,(1)の星の見える高さがちがうから23.8% Cの星の光りだす時間がちがうから17.4% Aの星の色がちがうから4.4%である。これらは,児童の素朴な見方をそのまま現しており,学習による変容がなかったことを示していると考えられる。言い換えれば,学習活動として,実際の星空観察をしたときの様子の記録や話し合いなどの機会が大切なことが,明らかになったということである。今後,自己の感覚を大切にした観察・実験と他の情報とを確かに関係付けることにより宇宙の時間的・空間的な広がりについて実感できるような学習の展開の工夫が重要と考えられる。
 
4,同一問題(全32項目)の通過率の比較
前回を有意に上回るもの………………17項目
前回と有意に差のないもの……………10項目
前回を有意に下回るもの………………5項目
      {平均の通過率}  (前回)73.0%  (今回)74.3%
 ここでは,前回を有意に下回るもの5つの内の一つを対象として分析・考察する。
B6 (1) 物質とエネルギ− {観点}自然事象についての知識・理解
{設定通過率}70%{前回通過率}71.1%(公立){今回通過率}62.2%(公立)
 
 通過率が前回より8.9%低下している。この設問では,酸素や二酸化炭素の性質についての知識を再生し,実験結果を判断することができるかを見ている。誤答をみると酸素の中に石灰水を入れてふると白く濁ると回答した者が33.7%である。これは,二酸化炭素の中に石灰水を入れてふると白く濁ることのイメ−ジが強すぎるために生じた:ケアレスミスによる結果とみることもできよう。また,理科学習の上でも長い文章や実験の様子や結果の図などの資料を正確に読みとる資料活用の能力が必要であり,今後の理科学習においては,観察・実験の重視と併せて重視すべきことを指摘しているものと考えられる。
 
(3) 児童・生徒「質問紙」調査の結果
 小学生を対象とした項目,全25項目中「理科の勉強が好きだ」をはじめ,18項目で,学年が上がるとともに理科について肯定的な選択肢の選択率が,減少していっている。
 一方,学年進行とともに,選択率の向上する項目は2つであるが,いづれもいわゆる理科の「受験」での効果を期待するものと考えられる。また,「増・減」が見られない項目は5項目ある。それは,「理科学習」と「職業」とのかかわりや学習活動の主体性を問う項目であるが,そのいづれもが10〜20%程度低い選択率である。
 なお,意識調査で,ある単元が「よくわかった」「好きだ」「普段の生活や社会に出て役立つと思っている」と答えた児童は,全体の得点も高い。目的意識や興味をもって学習をする態度を培う指導が大切であることが分かる。